ベルティング発声について科学の力を借りつつ最新の考察
2020.05.08
こんにちは!VT Artist Developmentの桜田ヒロキです!
このところ、
ベルティング発声と言う言葉が流行だし、
力強い高音を出したいのだな〜と思うのですが、
同時に間違った手順でベルティング発声を習得しようとする、
もしくはそもそもベルティング発声の認識を間違えているトレイニー、もしくはトレーナーが多くいるので、整理してみようと思います。
近年では科学の発達により、歌の世界における発声も徐々に分かってきた事もあります。
「ベルティング発声とは本当のところ何なの?」と言う疑問について科学の力も借りつつ調べてみました。
EGGを使った声門の密着時間(Contact Quotient)の検証
声を出すのには閉じた声帯に息を当て、振動させ音を作る事になりますが、
その閉じ方と言うのも発声において非常に重要な事になります。
その閉じ方を計測する事ができるのがエレクトロ・グロトグラフィ(EGG)と言う機械です。
喉頭に両端に電極を当て、
「声帯が圧着すると通電、離れると通電しない」
という仕組みを使って
声門が閉じているといる時間、
開いている時間の割合を計測すると言う仕掛けです。
声帯は会話をしている時、1秒間に100〜500回も振動します。
その1サイクルを見て見ると
「ゆっくりと、声門が閉じ、しばらく経過してから一気に離れる(通常の会話時の発声)」と
「ゆっくりと、声門が閉じ、しっかり閉じる時間が短くゆっくり離れる(裏声発声)」
に分かれます。
つまり「声帯がしっかり圧着している時間が長ければ長いほど地声に聞こえる」と言うのがわかります。
このグラフで見ると、
上の方に線が振れる時→声帯が閉じている
下の方に線が振れる時→声帯が開いている
と言う見方をします。
声帯の密着時間で考えるボイス・クオリティ
話し声においては通常、
・50%程度の声を健康的な発声。
・30%程度を声を息っぽい発声。
・65%程度を圧迫/ 過緊張な発声。
と人は認識出来るそうです。
歌唱の世界においては、
音声学の権威、(音響解析ソフトVoceVistaの最初の制作者です)ドナルド・ミラー博士は
「50%以下の声門の密着時間をクラシックの女声。
65%以上を力強い男声の頭声(オペラのクライマックスと考えればよいと思います)」
と考えたそうです。
多用的な発声を求められるミュージカル音楽が登場した現代では、、、
クラシック発声(女声) →35%
ミックス発声 (地声と裏声の中間的な発声)→45%
技術的なベルティング唱法 →55%
音楽的ではない叫び声 →65%
(女性がD5の音を発声したものを検証)
このような結果になったとの事。
興味深いのは、この実験はミュージカル俳優、ボイストレーナーが自分の耳で発声された声のクオリティに対して判断→EGGで声門の密着時間を検証した事です。
科学は客観的なデータを取る物ですが、
歌声は芸術の世界の物で、
今までは「声門の密着時間=この歌唱法」とは定義しづらいのですが、
プロフェッショナルの耳で主観的に判断された発声法を
「この発声法は声門の密着時間は○○%です」
とある程度検証出来たこの研究は非常に意味があるものと思います。
ベルティングを定義するものって何?
・チェストボイス(地声)のクオリティをもった高音域の発声である。
・声帯下圧(声帯の下に起こる圧力)が高い
→したがって声門の圧着時間が長い
・クラシック発声よりも喉頭の位置が高い
→どの程度まで高い位置にするかは、検証が必要
・「叫び声」に近いクオリティか?
→叫び声とは違う
・特定のジャンルで聴かれる事が多い
ミュージカル、ロック、ゴスペル等など
ベルティング VS 叫び声
ここでは正しいベルティングといわゆる叫び声について考えていきましょう。
正しいベルティング発声
・トランペットのような鋭いクオリティを持つ
→Beyonceやルチアーノ・パヴァロッティの声は分かりやすいと思います。
・クリアな音である
・力強い
・音量変化への柔軟性が高い
・聴いていて美しく感じる
・ビブラートをかけらる
・高音に長時間いても大丈夫。音を伸ばす事も出来る
・故障リスクが低い
(音楽的ではない)叫び声
・生理的に出せる最も大きな声←ただただ、やかましい。
・音量変化を作れない(小さくするとひっくり返る or 音程が下がる)
・聴いていてうるさい
・喉仏が急激に上がる
・音を伸ばすのが不可能・困難
・故障リスクが高い
間違ったベルティング発声(つまりは叫び声)は美しくもないし、喉を怪我するリスクも高いと言う事です。
あなたが考えるベルティング発声は叫び声ではありませんか?
ベルティング発声を手に入れるのに最初のステップは?
オクターブ・ルール(女性)
では、ベルティング発声を手に入れるための最初のステップとして提案します。
僕の先生が「The Octave Rule」と呼ぶ理論があります。
それは簡単に言うと
「女性がE5をベルティングしたければ、
美しい裏声でE6まで発声出来るようにしておく事」
つまり狙ったベルティングする音の1オクターブ上まで発声練習をしておくと言う事です。
これには特に科学的な根拠があるわけではありませんが、
裏声で出せる音域の1オクターブ下までが、安全にベルティング出来る高さ
と考えるのは経験として賛同出来ます。
では男性は?
これは完全に僕個人の経験ですが、
「ベルティングをしたい5度上くらいを目安に裏声で練習する」
と言うのはどうでしょう?
つまり、ハイCをベルティングしたければG5くらいまで裏声で出せるようにしておくと言う事です。
もちろん、ここから技術的な訓練は必要になりますが、
これをまず習得するところからスタートしてみてはどうでしょうか?
間違った練習法や指導方法に気を付けて
ここで警鐘を鳴らしたいのが、間違った方法でトレーニングをする事ほど危険な事はない事です。
間違った出し方を「正しい」と思って練習してしまうわけだから。
気がつけば喉は故障してしまい、数ヶ月歌えない、手術をする事だったあるのです。
注意1 大きな声を出すために音域が明らかに犠牲になる場合
地声の出し方優勢の過緊張な発声になっている事が多いです、
注意2 「今は叫んでいる様に感じても良くなるから!」を繰り返すボイストレーナー
僕もごくごく稀に
あまりにも声を出すのに恐怖を感じる方、
声門下圧を必要以上に怖がる方には伝えますが、
ほとんどこれを言う事はありません。
注意3 間違った大きな声は、音楽的に良い声を作るよりはるかに簡単
ただただ、でかい声を出したければ橋の下で怒鳴る練習をすればよくないですか?
僕たちは音楽的で美しい力強い声を作ろうとしているのではないでしょうか?
声を出しつつ、「この声は聴く人が喜んでくれるだろうか?」「美しい声だろうか?」
よく考える必要があります。
レッスンは自分の声に対しての美的センスを養いための訓練でもあるのです。
レッスンは声を美しくするためのいわば「アトリエ」であり、
ただ声を出すための「作業場」であってはいけないのです。
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解説しているインストラクター
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター(2008年1月〜2013年12月)
VocalizeU認定インストラクター
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中のボイストレーナー。
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間2000レッスン以上を行うボイストレーナー。
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