桜田ヒロキ2025年6月2日 10:57 pm
【「どう歌うか?」の先にあるものを教えよう】
僕が米Speech Level Singingのインストラクターだった頃、先輩にこう教わりました。
「“どうやってその技術を身につけるか”を教えるのが、ボイストレーナーの仕事だ」
つまり、“How to(どうやって)”をしっかり体系立てて、生徒が体験として習得できるように導く。
それこそがトレーナーの役目だということです。
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▷ 言葉で理解させるのではなく、体で理解させる
運動学習の観点からも、生徒は説明を聞いて理解するのではなく、できた瞬間に理解するもの。
逆に言えば、言葉だけでいくら説明しても、生徒に“できた体験”を届けられなければ、指導は成立しません。
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▷ 僕が近年重視している「Why(なぜ)」の視点
ここ数年、僕は「How to」に加えてWhy(なぜそれをするのか)を伝えることをとても大事にしています。
たとえば、YouTubeなどでよく見かける「このフレーズでしゃくりましょう」「ビブラートをかけましょう」といった解説。
これらは、What to do(何をするか)のレベルにとどまっていることが多いです。
その技術を持っていない人にとっては、それだけでは何の役にも立ちません。
「どうやってやるか(How to)」がなければ身につかず、
「なぜそうするのか(Why)」がなければ意味を理解できないからです。
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▷ 「なぜそこにしゃくりを入れるのか?」
• それが拍の“強拍”にあたる場所だから?
• 跳躍の先でドラマティックに聞かせる必要があるから?
このように、音楽的・表現的な理由を理解していると、歌はまったく違うものになります。
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▷ Why を伝えなければ、歌が“オリジナルのコピー”で終わる
Why を伝えない指導では、特定の曲・特定のフレーズだけはそれっぽく歌えても、
他の曲になると急に表現が出来なくなる…そんな生徒になってしまいがちです。
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▷ 技術と表現はセットで教えるもの
「How to(どうやって)」と「Why(なぜそれをするのか)」をセットで伝えること。
そして、生徒がそれを実践できた瞬間こそ、本当の意味で歌の喜び・演奏の意義を感じられる瞬間だと僕は思っています。
金子 恭平2025年6月2日 12:26 pm
【発声レベルに合わせた曲選び】
ボイストレーニングの基礎エクササイズと、曲の歌唱は表裏一体です。
エクササイズがそのまま歌唱に役に立ち、歌唱がエクササイズをさらにうまくするような好循環をめざしたいものです。
「歌いたい!」と思える曲を歌うことが上達にもつながりますが、難易度の調整を失敗すると発声バランスを崩してしまいます。
今回は、ボイスタイプ別の曲選びの目安についてお伝えします。
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<地声を張り上げてしまう人>
◆特定の音を連発しすぎず、メロディが山なりを描いている曲。
◆中途半端な音域ではなく、いっそ普通の地声では歌えない高さまで到達する曲。
◆難しい音域が、下りのメロディで構成されている曲。
(Da-iCEさんの『CITRUS』など。※要Key調整)
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<地声が弱い人>
◆音域が広すぎず、エクササイズで作った地声感覚を持ちつづけられる曲。
◆高い音が出てくる場合は、その箇所が上りのメロディで構成されている曲。
(AIさんの『Story』など。要Key調整)
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<急に声が裏返る人>
◆上記ふたつのパターンの両方を、練習の狙いによって行き来します。
◆音域的には、換声点を適度にまたぐ曲を選ぶのが一般的。
(一青窈さんの『ハナミズキ』など。※要Key調整)
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お伝えしたような目安を持ちつつ、モチベーションが上がる曲を選べたら最高ですね!
三浦優子2025年5月30日 12:26 pm
【本人の歌い方をマネしてみる】
スタッフ後輩ちゃんと加藤先生のレッスンでは、ヨルシカさんの「春泥棒」を練習中。
加藤先生は、ご本人の歌い方を参考にしながら、スタッフ後輩ちゃんに細かく指導しています。
実はこの「マネをしてみる」という練習、とても効果的なんです!
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ご本人の歌い方をよく聴いてマネしてみると
・どこで地声と裏声を切り替えているか
・息の量はどれくらいか
・声の強弱や響きの変化
など、普段なんとなく歌っていたり、時には意識しない部分にフォーカスが当たります。
これが、発声の細かなコントロール力を鍛える練習になるんです。
さらに、楽譜には書かれていない「抑揚のつけ方」「リズムの揺れ」「言葉のニュアンス」なども体感できるため、
歌に感情を乗せる“表現力”も自然と磨かれていきます。
そしてもうひとつ!
「そのアーティストが、歌詞をどう受け取って、どんな声色で表現しているか」に気づくことで、歌詞との向き合い方も変わってきます。
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もちろん最終的には、自分らしい歌い方を見つけていくことがゴールです。
でもその前段階として、「曲を深く理解する」「発声をコントロールする」「表現の幅を広げる」ためのトレーニングとして、マネしてみるのはとってもおすすめです。
ぜひ、お試しください!
桜田ヒロキ2025年5月29日 3:02 pm
【歌う人必見】声帯が抱える“摩擦”と水分補給の大切な関係
声を出すとき、声帯は高速で振動しています。
実はそのたびに「摩擦熱」が発生しているってご存知ですか?
とくに、声帯の中央部分は一番振動が大きく、摩擦も最大に。
そしてこの摩擦は、音が高くなるほど・大きくなるほどどんどん強くなるんです。
• 1オクターブ高く歌うだけで摩擦エネルギーは4倍に
• 2オクターブ上がると、なんと16倍にも!
音量が大きければさらに増加。
つまり、高音&大音量で歌うとき、声帯は想像以上に負荷がかかっているということです。
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◉ 声帯を守るカギは「潤滑」
体にはこの摩擦に対応するシステムがあります。それが 声帯粘膜の潤滑機能。
粘膜の「粘性」が高い=ネバネバしていると、摩擦も増えてしまいます。
逆に「粘性」が低い=サラサラしていると、摩擦が減って振動もスムーズに。
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◉ 水分補給がなぜ大事か?
水を飲んだからといって、直接声帯にかかるわけではありません。
でも、体内の水分バランスが整うことで、声帯粘液の粘性を下げるサポートになります。
つまり、水分補給は、
• 声帯の潤滑性を保つ
• 摩擦による負担を減らす
• 持久力や声の安定感を支える
といった、声のパフォーマンスを守る超重要ケアのひとつなんです。
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歌い手にとって、水分補給は「日常のメンテナンス」。
一般の人以上に意識して取り組むべきポイントです。
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あなたは、今日ちゃんと水、飲めていますか?
喉が渇く前に、こまめに水分補給を心がけましょう!
田栗ななえ2025年5月28日 5:45 pm
【サビ感を作っていこう! / リズムや動きの作り方】
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加藤先生と後輩ちゃんのリズムを作っていくレッスンです。
今回の曲は、「Automatic/宇多田ヒカル」。
リーリースされたのは1998年(27年前!)。年月を経てもなおカッコいい曲☺︎ ポイントを確認していきましょう!
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後輩ちゃんのbeforeです。
サビの盛り上がり部分ですが、全体的に少しサラっと流れてしまっている印象があります。Bメロ最後の「Sun will shine〜〜〜」の伸ばしからの、サビ「It‘s automatic」。ここは、「サビきました!」的な感じを出していきたいところです。
加藤先生のアドバイス(ポイントは2つ!)
1.しゃくりでスピード感をつくる。
→ 声を滑らかに上げていく“しゃくり”で、メロディに勢いが生まれます。
2.裏拍を感じていく。
→ ビートの裏側(2拍目・4拍目など)を意識して、リズムにノリを出していきます。
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今回の「しゃくり」で、声の動きを作ることができます。また、「リズム(裏拍)」でも、休符を作ることでフレーズに動きが生まれます。そのリズムにより歌詞が強調される事でサビ感が増してますよね。そして、この「動きを作る」事がグルーヴに繋がり、サビ感の盛り上がりを引き立てます。
リズムの練習をするときには、今回の後輩ちゃんのようにどこの歌詞とリズムがハマるのかを、ゆっくりから確認して試してみてくださいね☺︎
金子 恭平2025年5月28日 5:43 pm
【歌の支えとは?】
歌にたずさわるなかで、多くの人が一度は「支え」という言葉を聞いたことがあると思います。
その意味を正確に理解しているでしょうか?
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「支え」という用語は、イタリアンオペラにおける「アッポッジョ(もたれかかり)」に由来します。
おそらく歴史上もっとも高名なテノール歌手であるルチアーノ・パバロッティが、支えの方法ついてシンプルな教えを残しています。
1.「まず深く息を吸い込み、横隔膜を下降させる」
2.「歌っているあいだ、可能なかぎりこの吸気時のポジションを保つ」
息を吸って横隔膜が下がると、胴体は樽のようにふくらみます。
そのふくらむ力(腹圧)を維持しながら歌うのが、支えということになります。
腹式呼吸や横隔膜呼吸と聞くと、お腹をへこませながら声を出すイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、まったく逆の動きになります。
歌うとき、とくに高音発声時は、声帯の上側と下側の圧力が拮抗していなければなりません。
このとき必要な声帯下圧を維持するために、横隔膜の急な上昇を防ぐ必要があるのです。
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この呼吸と支えにおいて、体のどこを意識するのがよいでしょう?
教え方はさまざまあるようですが、一流の声楽家たちはしばしば「背中」や「腰」を強調します。
とてつもない声を出す日本人オペラ歌手のレッスンを受けていた時期がありますが、その先生の歌唱時の腰(腰方形筋のあたり)を触らせてもらうと、信じられないくらいに大きくふくらんでいるものでした。
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歌以外の分野でも、腹圧を維持した呼吸が推奨されることは多いようです。
ぼくが知っているものだけでも――
◆スタンフォード大学スポーツ医局の山田知生さんが提唱する『IAP呼吸法』
◆尺八奏者の中村明一さんが提唱する『密息』
といったメソッドがあります。
お二方とも本を出版されています。興味深い内容でしたので、歌手のみなさんも読んでみるとよいかもしれません。
桜田ヒロキ2025年5月27日 9:44 am
【その「声の不調」、水分不足が原因かも?】
「歌い出すとすぐに咳払いしたくなる」とか、「喉に痰が絡んでスッキリしない」っていうクライアントさん、実はけっこう多いですよね。
そんなとき、まず確認してほしいのが水分摂取量です。
実際に「お水、どのくらい飲んでますか?」と聞いてみると、ほとんどの方が驚くほど飲んでいません。
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▶︎ 1日に必要な水分量はどのくらい?
目安としては、
体重(kg)× 30〜40ml
たとえば体重50kgの方なら、1.5〜2リットル程度が目安になります。
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▶︎ なぜ水分が大切なのか?
声帯は、例えるなら“湿った薄膜”のような構造。
水分が足りないと粘液が乾燥しやすく、摩擦が増えて声帯の負担もUP。
結果として「ガサつき」や「声量の低下」、さらには「痰がからみやすい」といった症状につながることも。
実際、水分不足が明らかなクライアントさんに、適切な水分補給と基本的な発声をセットで提案したところ、次のレッスンで声の明瞭さ・張りが格段に改善したという例もあります。
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▶︎ レッスン中の水分補給、忘れてませんか?
これから夏にかけては脱水症状にも注意が必要な季節。
「のどが渇いたと感じる前に飲む」くらいの意識がちょうどいいです。
レッスン時には、水分(できれば水や常温のハーブティー)を必ず持参して、こまめに補給できるようにしましょう!
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まとめ
• 声の不調は水分不足が原因のことも多い
• 体重×30〜40mlの水分を目安に
• 小まめな水分補給で声帯を健やかに!
「トレーニングの成果が出ないな」と感じたら、まず楽器(=体)のメンテナンス、チェックしてみましょうね!
金子 恭平2025年5月22日 12:37 pm
【発声エラーは上達をさまたげる?】
効率の悪い発声を繰り返すと体がそれを覚えてしまうので、なるべく非生産的な失敗をしない(させない)ようにする――。
これがハリウッド式ボイストレーニングの基本になります。
しかし、失敗は絶対にNGかというと、そうではありません。
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<失敗なしの練習>
運動学習の分野では、『エラーレス学習』の開発が盛んです。
なるべく学習者に失敗をさせず、最小の反復回数で動作を習得させる方法です。
究極的な形としては、スポーツ競技者にマシンを装着して、無意志で動作させるトレーニングなども行われているようです。
成功したときの体感を、まっさきに獲得させるのが目的です。
「体験したことはできるようになる」という人間の仕組みを利用しているんですね。
ボイトレにおけるエラー回避は、難易度の調整によって実現します。
苦手なエクササイズを避けてメニューを組むことで、失敗を最小限にとどめます。
難所を迂回しながら目的地――ミックスボイスを出すなど――を目指すイメージです。
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<失敗ありの練習>
一方で、失敗の重要性を説く論文も数多く存在します。
たとえばLee氏らによる研究では、「エラーを許容したトレーニングは、練習段階では多くの試行錯誤と苦労を伴うものの、動作記憶保持の点でエラーレス学習より優れている」ことが確認されました。
大切なことですが、Lee氏は「すべての失敗が等価ではない」とも言っています。
ひとつひとつの失敗から学びとるスタンスがなければ、非生産的どころか逆効果な練習になる恐れもあります。
On the Role of Error in Motor Learning
Lee, T. D., Eliasz, K. L., Gonzalez, D., Alguire, K., Ding,K., & Dhaliwal, C.
2016
Journal of Motor Behavior, 48(2), 99-115.
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<理想的な成功と失敗の割合>
ボイストレーナーによって、レッスンスタイルはさまざまです。
難易度を下げてリズムよく進行してくれる先生もいれば、苦手な技術とじっくり向きあうよう促してくれる先生もいるでしょう。
30%程度の失敗率が、学習効率を最大化するという研究もあります(Al-Fawakhiri氏らによる)。
生徒さんたちとのレッスン経験からも、成功7:失敗3はいい塩梅だと感じます。
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<長期的な視野>
ハリウッド式ボイトレでは、とくに初学の段階では成功体験を積み重ねることを重視します。そのほうが上達が早いからです。
ですが、仮にミックスボイスが体験できたあとでも、苦手なエクササイズがいくつも残っているような状態ではどうでしょう。それぞれの楽曲におけるメロディと発音の並び、歌う環境や日々の体調の違いに対応できるでしょうか。
長期的には、苦手な技術とも向き合っていく必要があります。
それぞれの発声の悪癖に合わせた、処方箋のようなトレーニングはハリウッド式の魅力です。しかし、本当に発声の上手な人はなんでもできるというのも、また事実なのです。
いっしょに頑張ってまいりましょう!