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発声筋にも速筋と遅筋がある?

骨格筋には大きく分けて「速筋」「遅筋」といった役割の異なる機能があります。
筋肉の収縮速度の速い「速筋」は、大きな力を短時間に発揮することができます。
そして瞬発力やパワーが必要な運動を行うときに活躍しますが、疲労に弱いとされています。
一方で、収縮速度の遅い「遅筋」は、長い間収縮し続けることができるのため、長距離走やなど持続的な運動を行うときに活躍します。
遅筋は瞬発的に強い力を生み出すのに弱いとされています。
人間の体は筋肉の部位により筋繊維の割合が異なり、目的により必要とされる筋繊維も異なります。
体の部位ごとや使われる用途などによってこの割合を変えながら進化していったのかもしれません。

声をコントロールする喉頭の各種筋肉にも割合の違いはあるのか?

National Library of Medicineに掲載されている論文では内喉頭筋の筋繊維の割合が書かれています。

Crycothyroid muscle(輪状甲状筋)
・声帯に張りを作る
・1/2が速筋で1/2が遅筋
・音程のコントロール、高音の発声が主な機能とされる

Thyro-arytenoid muscle (甲状披裂筋)
・声帯の収縮筋として機能
・2/3が速筋で1/3が遅筋
・発声においては声門閉鎖、地声の生成が主な機能とされる

Posterior Crico-arytenoid(後輪状披裂筋)
・声帯を開く
・1/3が速筋で2/3が遅筋
・呼吸時に主に機能する

各種筋肉の動きについては“発声において重要な筋肉の動きを理解しよう”をご覧ください。

筋繊維から予想出来ることとは


予想が簡単なのはPosterior Crico-arytenoid(後輪状披裂筋)でしょうか。
呼吸時・声帯を開く際に筋肉を使っている状態になります。
これは遅筋が優勢になっていると考えられます。
なぜなら常に働く必要があるため、持久的な運動が必要だからです。

Crycothyroid muscle(輪状甲状筋)は瞬発的な動き・継続的な動きがバランス良く行う必要であるため、速筋・遅筋の割合が半々というように発達していったのかもしれません。

Thyro-arytenoid muscle (甲状披裂筋)は気管に異物が入る際に咳をするのに、直ちに甲状披裂筋を使って声門閉鎖を行います。
そして声門下圧を高め、咳をして空気ごと異物を外に追い出します。
もしくは話し声で主に使われる地声を出す際に素早いアタックが必要とされます。
生物学的に考える喉頭の存在意義は外部から入ってくる異物を肺に入れないのが目的と言われていますので、速筋の可能性が高そうですね。。。

ボイストレーニングでの応用は?

Thyro-arytenoid muscle (甲状披裂筋)の働きで考えてみます。
「10数分の地声の発声練習などで声がかすれる」「ただし5~10分すれば元に戻る」ような場合は、「速筋優性の甲状披裂筋を過度に使った発声を行っている可能性がある」と考えられます。
つまり、地声を出すために見積もっている労力が高すぎるということになります。
したがって甲状披裂筋を過度に使った地声発声を長時間行うことは難しいと予想できます。
速筋優性の甲状披裂筋は持久力が低いため、筋肉に力を入れる事ができなくなります。

そして充分な振動体になれない可能性が考えられるため、過度に筋力的な声量を作るのを避けて上手に声を響かせて声量を稼ぐような発声方法を考える必要がありそうです。
地声発声が苦手な方(女性に多い)は、ビブラートやコロラトゥーラ、リフやリッキングといった声を素早く使った動きが苦手な傾向があります。

この場合、地声発声をあまり必要としない声楽家であっても地声系のトレーニングを行う事で声の瞬発性が高まる事があります。
もしかすると、Thyro-arytenoid muscle (甲状披裂筋)が瞬発的な音程変化にCrycothyroid muscle(輪状甲状筋)が補助的に働き、素早い音程変化に対応できるようになり、その瞬発的な動きに甲状披裂筋の速筋が貢献する可能性が考えられますね。

まとめ

今の時代は論文にも非常にアクセスしやすくなったので、とてもワクワクしています。
このように、1つの論文からも予想できる事を考えてボイストレーニングへの応用を考えることは、ボイストレーナーの技術の可能性をさらに拡げてくれそうですね。

解説しているインストラクター

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター(2008年1月〜2013年12月)
VocalizeU認定インストラクター

アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中のボイストレーナー。
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間2000レッスン以上を行うボイストレーナー。

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