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歌う人のための呼吸の知識

呼吸のプロセスについてお話しします。
アメリカの大学のオンラインコースで1年間くらい学んだことを共有するので、役に立てていただければと思います!
発声の教育の中でも間違ったことがまかり通っていることがあります。
例えば「横隔膜に力を入れて息を吐く」なんてことは全く起きてきません。
このように解剖学的に間違っていることはなるべく避けていきたいですよね。
その上でどういう技術を使ってやっていくのかという事を言語化してもう一回考えていただければと思います。

息が声に変換されるプロセス

息が声に変換されるプロセスはこのようになっています。

①肺から息が吹き上がる
②息を声帯で受け止める
③声帯で受け止められたものが喉頭原音として作られる
④喉頭原音が声道を通る中で、音色・母音などに加工され声として出力される
この①で重要な呼吸器をコントロールする筋肉には吸息筋と呼息筋に分けられます。

呼吸をするのに必要な筋肉

吸息筋(息を吸うときの筋肉)

・胸鎖乳突筋
・僧帽筋
・外肋間筋
・横隔膜

呼息筋(息を吐くときの筋肉)

・内肋間筋
・外腹斜筋
・腹直筋
・内腹斜筋
・腹横筋

胸鎖乳突筋と僧帽筋を使った呼吸というのは肩が上がってしまう胸式呼吸と言われるもので、歌で使うのはあまり推奨しません。
運動の時には良く使われる筋肉なので歌の中ではミニマムに動いて欲しい部分にあたります。
歌の中で主に使う筋肉は外肋間筋と横隔膜になります。

横隔膜は息を吸い込もうとする時、肺を下の方に広げる役割があります。
そして外肋間筋は肋骨の間にある筋肉でアコーディオンのように肺を広げる役割があります。
胸式呼吸では肺を上に広げるという役割をするので、吸息筋では肺を上・横方向(アコーディオンのように)・下の動きで肺を広げて空気を満たそうとしています。

内肋間筋は肋骨の間の内側に通っている筋肉で肋骨を狭める働きをして、外肋間筋は外側に通っている筋肉で肋骨を広げる働きをしています。
外腹斜筋・腹直筋・内腹斜筋・腹横筋は腹筋群なので、腹筋を絞ることによって横隔膜から肺にかけて押し上げる働きをしています。

歌にとって大事な発声時の筋運動について

肺にかけて押し上げる働きをしています。

ではここから歌にとって大事な発声時の筋運動について見ていきましょう!

Phese1→Phese2→Phese3→Phese4まできたらまたPhese 1へ戻り循環されます。

Phese1:肺の周辺の弾性と横隔膜の弛緩

Phese1から見てみましょう。
ここではPhese4で息を吸う状態からPhese1に移行するので、Phese1は息を吐き出すプロセスの第一段です。
横隔膜は力が入ることで下がり、力が緩まると上がっていきます。

ここでは横隔膜が緩み、肺と一緒に肋骨が膨らみます。
そして元に戻ろうとする弾性により肺は縮もうとします。
受動的動力なので肺を縮めるという力は発生していません。

外肋間筋によるChecking Actionが起こります。
「Checking」とは「相反する」を意味します。
外肋間筋は息を吸うときに肋骨を広げる働きをするので、この筋肉が働いていないと肺は一気に縮もうとします。

歌ったりするときにこのようなことが起きてしまうと肋骨周りが非常にリラックスしすぎて、最初の息が強すぎる現象が起きてしまいます。
なのでChecking Actionを起こすことで初動で息がバッと漏れるのを防ぐことができます。
これは歌の中では非常に重要です。

Phese2:肺の周辺の弾性と横隔膜の弛緩 内肋間筋が活動開始

続いてPhese 2です。
ここでは肺が吸って吐いてと元の位置に戻ろうとしている動き、その時に横隔膜が弛緩して上がってくる動きを指しています。
そしてその時に肋骨を狭める内肋間筋の活動が開始されます。この時点では能動的に肺を縮めようとしています。

内肋間筋の活動 腹筋の活動

Phese3です。
Phese 2で内肋間筋の活動により肋骨が狭まり吐くのがそろそろ厳しくなってきた時に、腹筋の活動により肺を上げていくという動きを指しています。

Phese4:(息を吸い始める)呼息筋のリリース 横隔膜の収縮

最後はPhese4です。
ここで息を吸い始めるという働きをします。
呼息筋が働き始め、吸息筋は使われなくなるため、横隔膜の収縮が始まります。
横隔膜が下がっていき、肺も下がっていき、外肋間筋などの働きによって肋骨を広げ息を吸うということが行われます。
そしてまたPhese1の働きに続いていきます。

肺の容量をどのように使っているのか

そしてまたPhese1の働きに続いていきます。
続いては肺の容量をどのように使っているのか、見てみましょう。
肺の容量は男性で6L強、女性で5.5L程ですので平均で6Lと考えてみます。

人間はリラックスしている時や寝ている時は一回の換気量が500ml程と言われています。
このような呼吸をしている時に最も活動が盛んな筋肉は横隔膜です。大きな運動を必要とせず、胸郭を広げたり縮めたりするようなアクションが必要ない時は、横隔膜をメインに使いながら吸ったり吐いたりを繰り返ししています。
なので声を発しようとしたり運動し始めたりする時は、この換気量では足りません。

このリラックスしている時や寝ている時の呼吸から、限界まで思いっきり息を吸い込んだ時の換気量は最大で3100mlぐらいです。
そこから次に思いっきり息を吐いた時の換気量は最大でだいたい1200mlぐらいです。
これらを合わせた4800mlが一般的に肺活量と言われる値になります。

肺の容量6000mlから肺活量4800mlを引くと1200mlにまだ残っています。
この1200mlの残容量は肺がぐちゃっと潰れてしまうのを防ぐために残されている容量のため呼吸で使うことはできません。
そして年齢と共に柔軟性が失われていくと共に、この残容量は上がっていき、肺活量は下がってしまいます。

肺活量を若い状態に保つためには

肺活量を若い状態に保つためにはフィットネスなどの運動が大切になります。なのでシンガーの皆様、運動しておくのを推奨します。
ただし、「長いフレーズが歌えません」という状況は運動では解決できないと考えます。

長いフレーズが10秒だとして5秒で切れてしまうというのを有酸素運動で10秒に伸ばすということは不可能です。
これを解決するには、おそらく肺を一気に縮めないようにするために胸郭を開きっぱなしにするエクササイズや、声門閉鎖を高めるエクササイズが必要になってくると考えられます。
ロングフレーズが歌えないのは歌唱的な技術の可能性が非常に高いです。
これらの情報をどのように歌手として使っていけるのか、ボイストレーナーとして使っていけるのかは次回お話しします。

解説しているインストラクター

桜田ヒロキ
桜田ヒロキ
セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター(2008年1月〜2013年12月)
VocalizeU認定インストラクター

アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中のボイストレーナー。
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間2000レッスン以上を行うボイストレーナー。

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