こんにちは!VTボイストレーナーの三浦優子です。今回のボイストレーナー養成講座【VT-RV】は、リチャード・リズモア先生による「音響・音声学」の実践編です。全2回の予定だった講義に、先生のご厚意で実践編を加えていただきました。
前回、前々回は音響・音声学の基礎を学びました。今回は、その知識を歌唱の分析や指導にどう活かすのか、音響解析ソフトを使いながら学びます。

講義のはじめに、ソース・フィルター理論を復習しました。その後、音響解析ソフト「Praat 」を使い、録音した音声データを波形やスペクトログラムで確認する方法を教えていただきました。
いきなり歌唱の分析を始めずに、まずは母音に注目して基礎を確かめます。リチャード先生は、「i」「a」「u」の3つの母音を取り上げ、フォルマントの違いを説明してくださいました。
フォルマントとは、声道の形によって特徴づけられる共鳴の周波数帯です。第一フォルマントをF1、第二フォルマントをF2と呼びます。今回の講義では、それぞれの母音に次のような特徴があることを確認しました。「i」では舌が前方かつ高い位置にあります。舌によって声道が狭められ、舌より前と後ろで空間の大きさに違いが生まれます。この声道の形がフォルマント周波数に影響し、「i」はF1が低く、F2が高くなるのが特徴です。
| 母音 | 第一フォルマント(F1) | 第二フォルマント(F2) | 講義で確認した特徴 |
|---|---|---|---|
| i | 低い | 高い | 舌が前方かつ高い位置にあり、声道の前後で空間の大きさに差が生まれる |
| a | 高い | 低い | 第一共鳴点付近の強度が強く、F1とF2が近い位置にある |
| u | 低い | 低い | 第一・第二フォルマントともに低い |
リチャード先生は、母音ごとの共鳴点の特徴を両手の動きで示してくださいました。私たちもその動きをまねながら、それぞれの違いを覚えていきました。

次に、なぜボイストレーナーが若いシンガーに「i」と「u」の母音をよく練習させるのかを学びました。
「u」は母音の特性上、音の強度が弱くなる傾向があります。波形を見ながら、その特徴を確認しました。高音になるにつれて叫ぶような発声になりやすい男性シンガーにとって、「u」を使った練習は、発声の課題に取り組む助けになるそうです。
「i」には、歌唱に活かせる特徴が2つあります。第一フォルマント(F1)の周波数が低く、調整できる余地があること。第二フォルマント(F2)の周波数が高く、よく響くことです。リチャード先生は「i」と「u」を実際に発声し、それぞれの鳴り方の違いをデモンストレーションしてくださいました。
「a」はスペクトログラムで見ると、第一共鳴点付近の色が濃く、強度が強いことが確認できました。また、第一共鳴点と第二共鳴点が近い位置にあるため、特に若い歌手にとってコントロールが難しい母音だと学びました。
そのため、高音で「a」を発声するときに叫ぶような声になりやすい男性シンガーは、コントロールできるようになるまで時間がかかります。一方、若い女性のソプラノにとっては、発声をコントロールするうえで有用な母音になるそうです。

講義の後半では、音響解析ソフト「Voce Vista」を使って歌唱を分析しました。波形、スペクトログラム、パワースペクトル、母音チャートなどの機能について、まず使い方を教えていただきました。
最初に分析したのは、アカペラで歌われているクラシックの曲です。興味深かったのは、パワースペクトルを見ると、息っぽい声では高い周波数帯の成分が弱く、基本周波数の成分が相対的に強くなることを確認できた点です。
そのため、ベルティングでは、基本周波数の成分が相対的に強くなりすぎないよう調整することが大切だと教わりました。
また、クラシックの歌い手が共鳴点の周波数を下げるために喉頭を下げることについても説明がありました。一方で、ポップスの歌い手が喉頭を下げすぎると、目指すサウンドに必要な共鳴の状態から遠ざかることがあります。
喉頭の位置は声道の形状に影響し、共鳴点の周波数も変化します。目指すジャンルやサウンドに合わせて喉頭の位置を考えることが大切です。音を可視化すると、目指すサウンドと共鳴の関係を分析し、喉頭の位置についても考えられることが分かりました。
その後は、ポップスやミュージカルなど、異なるジャンルの歌唱を分析しました。女性シンガーがD5の音をベルティングで歌っている箇所をパワースペクトルで確認したところ、リチャード先生は効率のよい発声になっていないことを指摘されました。さらに、どのようなエクササイズを行い、発声を調整していけばよいのかも教えていただきました。
音響解析ソフトを使って歌声を可視化することで、目指すサウンドに近づけるための調整や、必要なエクササイズまで考えられます。とても実践的で、面白い学びでした。

講義の最後には、喉頭の位置を変えると共鳴点の周波数も変化することについて学びました。
クラシックでは、喉頭を下げすぎると共鳴点の周波数も下がり、暗く重たい声になることがあります。一方、ポップスやミュージカルでは、喉頭を上げすぎることで共鳴点の周波数が高くなりすぎ、締め付けたような声や叫ぶような声になることがあります。
大切なのは、目指すジャンルやサウンドに合った喉頭の位置を見つけることです。その判断では、ビブラートの速度や振れ幅が、歌いたいジャンルに適しているかどうかも重要だと教えていただきました。
この話を聞いて、前回受講したビブラートの講義と、今回の音響・音声学の内容がつながったように感じました。
VT-RVでは、専門分野ごとに異なる講師の方から学びます。講義を重ねるなかで、別々の分野で学んだ知識が結びつく場面がたくさんあります。今回学んだ音響解析の知識も、これからのレッスンに役立てていきたいと思います。
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