声帯の特性を紐解いてみよう
2023.05.04
声帯というのは層になっていて、おおまかに粘膜、靱帯、筋肉の3層になっています。
この3層のうちどこを振動体にするのかで、発声できる限界の高音は変わります。
下記のグラフは声帯の粘膜、靱帯、筋肉をそれぞれに分けて、声帯を引っ張るためにどれだけのストレスが必要なのかを計算したものを記してあります。
※左側の線から粘膜、靱帯、筋肉
声帯の伸び方について
このグラフから声帯の伸び方は一定ではないということが読み取れます。
縦軸はストレスの度合いです。
横軸は何パーセント声帯の部位が引き延ばされたかを表しています。
1つの例を挙げてみます。
グラフの右側の点線で表されている筋肉の層を見てみましょう。
15%声帯の筋肉層を伸張させるためには、約2kPa程度のストレスが必要です。
30%声帯の筋肉層を伸張させるためには、約10kPa程度のストレスが必要です。
このように長さを15%変えるのと、30%変えるのでは実に5倍の力が必要となります。
つまり、声帯を引き延ばせば引き延ばすほど声帯は硬くなっていきます。
そしてさらに引き延ばすのは大変になるという事です。
体感的にも、高音域で少し音程を上げるのにも大きな労力がいるという意味では一致するのではないでしょうか?
ここで物理の世界で使われる言葉を整理しておきます。
・ストレス = 場所にかかる力
・ストレイン = 何パーセント元の長さから変更があったか(どれくらい引き延ばされたか?)
・剛性 (Stiffness) = 曲げやねじりの力に対する、寸法変化(変形)のしづらさの度合い
声帯の部位ごとに硬さが異なる
声帯は筋肉の層が最も柔らかく、その次に靱帯で、最も硬いのが上皮(epithelim)です。
一般的に、上皮と靱帯は同じように振動をすると言われています。
硬さで言うと、
1 、上皮+靱帯(カバー)
2 、筋肉(ボディ)
という順になります。
この図を例で見てみると、筋肉層は10%引き延ばすのに、1.8kPa程度の力が必要になります。
それに対して、靱帯は10%引き延ばすのに、3.8kPa程度です。
靱帯の方が同じ長さに引き延ばすのに、倍以上の力が必要だということが分かります。
高い音を出す簡単な実験として、柔らかい輪ゴムよりも硬い輪ゴムの方が弾いた時の方が高い音が出ます。
このように、声帯の剛性が高い状態の方が、高い音程を作り出すのに重要な要素だとすると、高音時の発声は筋肉層よりも靱帯層を振動させる方が有効であるということになります。
一般的には、地声が筋肉層の振動であり、裏声や頭声が靱帯層の振動だと言われるのはそのような理由があると考えられます。
声帯に掛かるストレスは?
声帯に掛かるストレスは靭帯と筋肉の両方に加わります。
・カバー(上皮+靱帯)
ストレスは受動的で主に輪状甲状筋から受けると考えられます。
靱帯は自ら縮む事が出来ないためです。
・ボディ(甲状披裂筋)
甲状披裂筋は声帯内部に走る筋肉で自ら縮む事ができます。
従って自らストレスを声帯に加える事ができます。
この特性の違いから声帯の部位ごとにストレスを加えると、音程はどのように変化するのかをみてみると面白そうですね。
解説しているインストラクター
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター(2008年1月〜2013年12月)
VocalizeU認定インストラクター
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中のボイストレーナー。
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間2000レッスン以上を行うボイストレーナー。
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