細いキンキンのミックスボイスを強化する方法を解説
2022.08.14
「カリカリの裏声」に芯ができたような、金属的な音は出せるようになったけれども地声にはならないし、地声・裏声と繋がらないしどうすればいいの?と言うお悩みの方もいらっしゃるかと思います。
硬い裏声ってそもそも歌として成立しないですよね
YOUTUBEのコメント欄で質問をいただいているのでそこからお答えします。
質問:私は女性で、ファルセットを強く出すことはかなり得意な方です。話声の地声が低くB3くらいまで出るのでカラオケでは男性曲ばかり歌っています。先生を始めとするボイトレ動画を色々見て声帯閉鎖した硬い裏声はある程度作れるようになったのですが、地声感が全然混ざりません。女性が頭声から降ろしてきた時に地声を混ぜるトレーニングが知りたいです。
ではお答えしていきたいと思います。
冒頭に書いたようなカリカリの裏声は出るのかと思われます。
昨今のボイストレーニングの流行りなのか「声門閉鎖!閉鎖!」と言うトレーナーが増えましたね。
僕も元々はわりと言っていたタイプでした。
もちろん声門、閉鎖は必要です。声帯がちゃんと閉じていなければ力強い声を出すことはできませんし、息漏れしてしまう声になってしまうので閉鎖はある程度、重要です。
声は声帯が閉じて開いてということを何度も早く繰り返し作られていきます。
声門閉鎖割合の計測が科学的に可能です
喉に電極を付けて声門の閉鎖割合を計測するという機材が存在します。エレクトロ・グロト・グラフ(EGG)と呼ばれる物です。
声門閉鎖の度合いですが、息っぽい声ですと30〜40%声帯が閉じます。
逆に言うと60〜70%程度は声門が開いていると言う事になります。
通常時の声ですと50%程度声帯が閉じます。
ベルティングボイスという、力強い声ですと60〜65%で、70%程になると怒鳴り声・金切り声のような音色になってしまうそうです。
このように割合がとても重要になっていきます。
100%声帯を閉じた状態は息を止めてしまい声帯は振動しないので100%の声門閉鎖というのは存在しません。
マーケティングなどを考えると「完全」「absolute」という言葉のインパクトが強く使っているのはわかりますが、そこから生まれる声というのは存在しません。
そのような表現をされているボイストレーナーさんは、、、まあちょっと良くないかなとは思います。。。
カリカリした金属的な声をファリンジャル・ボイスと呼んだボイストレーナーがいました
VTでもよく使っているカリカリとしたような声での【Nay】【Naa】のエクササイズはPharyngeal Voiceと言い、直訳すると「咽頭的な声」になります。
提唱したボイストレーナーにはSLS(Speech Level Singing)、Herbert-Caesari(Seth Riggsが勉強したメソッドの提唱者)、IVA(Institute for Vocal Advancement)がいます。
Herbert-Caesariは著者『Voice of the Mind』を書いています。
彼らが提唱したトレーニングの方法論としてPharyngeal Voiceというのがあります。
ファリンジャルボイスはあくまで裏声
ここで重要なのが、Pharyngeal VoiceはあくまでもFalsettoから作られているということです。
声帯の深い筋肉の部分では振動帯としてはほとんど関与されてなく、外側の粘膜層と靭帯層を振動させている方法となります。
従って基本的には裏声と考えられます。
この裏声の状態は声道の中の咽頭部を狭く使い喉頭を上げるため、声道自体が細く狭い状態になります。
こうすることにより高周波成分(3kHz~10kHz)の多い発声になります。
3kHz~6kHzは人間の耳にはとても強く聞こえる周波数帯域なので、裏声であっても無条件に強い声に聞こえます。
これだけ高周波成分が出ているということはかなり強い声門閉鎖の状態となっています。(完全閉鎖ではありません)
そして裏声で声門閉鎖を強めるために息はかなり減らしています。
なぜなら声帯を薄い状態で使っているので強い息をぶつけてしまうと息っぽい裏声やブレイクが起きてしまうからです。
ブリッジングをスムーズに行うための目的として作られているため、低い音も声帯を分厚く合わせず薄くしておき、高い音は薄い状態の声帯を強く閉じ、息を減らします。
そうすることにより圧がガクっと変わって聞こえてしまわないようにします。
このカリカリした鋭い音は、メソッドによっては「Nasal Twang」「Oral Twang」と言って「鼻を鳴らしている」「口を鳴らしている」と言った表現をしたりもします。
どちらにしても「Twang」という金属的な発声を指す言葉を使ったりもします。
ファリンジャルボイスについて
先ほどもお伝えしたように、咽頭を狭くし、喉頭を引き上げます。
それからPyriform sinus(梨状陥凹)を狭くし、4kHz~6kHzのAnti-formantを防ぎます。
通常、共鳴を起こしている時はプラスに働く状態(formant)で小さい音が増幅されていきます。
喉頭蓋の横にあるような幅にスペースができてしまうと、それがマイナスに働いている状態(Anti-formant)が起きます。
Anti-formantが起こると増幅の逆が起こる事を意味しますので、声のパワーが落ちる事を意味します。
代表的な例が開鼻声(Open Nazal)です。
梨状陥凹辺りを狭くすることによりAnti-formantを防ぎ、高い周波数帯域を増幅させやすい発声環境になります。
「人間によく聞こえる声」を作っていくのに良い方法となります。
ファリンジャル・ボイスは人間の耳によく聞こえる周波数帯域を出している感覚を一時的にシンガーに掴ませるためにも良い方法だと思われます。
ベース(男声の低音声種)が顎を引き、二重顎を作って声を出しているのを観た事がある方もいると思います。
「喉頭の上にプレッシャーを加えることによって梨状陥凹を狭くしているのではないか」という説をあげている研究者もいました。
僕は低い音を出す時に顎を引くというのはあまりおすすめしませんが、方法論としては顎を引くことにより梨状陥凹を狭くしてAnti-formantを防いでいると考えられます。
ファリンジャルボイスの目的
続いてはPharyngeal Voiceの目的です。
通常は低い音は声門下圧が高く、高い音は声門下圧が低い状態なので、声門下圧を揃えることによりスムーズなブリッジングを行います。
これは難易度が低く、低い音から高い音に繋げやすいです。
そして、このカリカリな声でのエクササイズが難なくできるようになったら、カリカリの裏声から卒業して地声にしていく必要があります。
実際のボイストレーニングの方法
では実際によく使っているエクササイズをご紹介しますね。(※動画良くみて下さいね)
【Nay】Broken arpeggioを2回行います。
1回目はカリカリの声にして2回目は普通の歌声を想定して行います。
また「ア」と「エ」の中間母音[æ]を用いて【Naa】Broken arpeggioを行うこともあります。
このようなステップで声の開発をしていくと良いと思います。
最後にまとめ
Pharyngeal Voiceは裏声であり、高周波成分をのせるのに良いトレーニングです。
あくまでも裏声なので地声の歌声を作りたいのであればどこかで裏声のカリカリな状態から地声に変更する必要があります。
方法論は動画に収めていますので、よく研究してみてくださいね!
しっかりポイントをおさえて練習してみてくださいね。
解説しているインストラクター
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター(2008年1月〜2013年12月)
VocalizeU認定インストラクター
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中のボイストレーナー。
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間2000レッスン以上を行うボイストレーナー。
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