音程はどうやって作るの?〜裏声編〜
2023.07.14
声帯に掛かるストレスは靱帯と筋肉の両側に加わりますが、基本周波数(ピッチ)を発声するために声帯ではどのような事が行われているのかみていきましょう。
声帯は弦とバネの特性を持つ
声帯は弦の特性を持つと言われています。
声帯の振動をモデリングする際は、弦の特性だけでなくバネの特性も理解する必要があります。
声帯のバネの特性で基本周波数(ピッチ)を考えると下記の数式で表すことができます。
剛性(かたさ)が強ければ音程は高くなります。
質量が多ければ音程は低くなり、重いと振動が遅くなると言う事です。
数式で見ると難しく思いますが紐解いてみると、これは理解しやすいですね。
次に声帯の弦の特性で基本周波数(ピッチ)を考えると下記になります。
長さが長ければ、音程は低くなります。
なので長い声帯の男声だと音程が低いと言う事ですね。
そしてストレスが高ければ音程は高くなり、密度が高ければ音程は低くなります。
ここでの注意ポイントは【長さ(L)×2】になっている事です。
長さと言うのは音程に非常に大きな影響を及ぼし、それを超えるストレスを声帯に加える必要があります。
そのため高音発声時には声帯に与える緊張は非常に高い必要があるという事です。
声帯の物理的な変化と音程の変化は?
声帯の物理的な変化と音程の変化を整理していきましょう。
声帯は2つのグループに分ける事ができます。
・カバー(上皮+靱帯)
ストレスは受動的で主に輪状甲状筋から受けると考えられます。
これは靱帯は自ら縮む事ができないためです。
・ボディ(甲状披裂筋)
甲状披裂筋は声帯内部に走る筋肉で自ら縮む事ができます。
従って自らストレスを声帯に加える事ができます。
ではカバー(上皮+靱帯)が輪状甲状筋と甲状披裂からどのように影響を受けるのか紐解いてみましょう。
以下の図は声帯のカバー(上皮+靱帯)のみを振動帯とした場合のモデルになります。
これを見ると勘の良い方はピンと来たかと思いますが、カバーのみを振動させる発声は、頭声や裏声と分類されるものにあたります。
80HzでE2程度ですので、かなり低いエリアでのモデルになっているため、実環境とはだいぶ異なるのが残念ですが、この仕組みを理解するのには充分ではないかと思います。
輪状甲状筋が活動が強くなれば、周波数は上がるため音程は上がります。
では次に以下の図を見てみましょう。
80Hzのところにラインを引きました。
甲状披裂筋の動きが0.4の時は輪状甲状筋は0.25程度の力で済むのに対して、甲状披裂筋の動きが0.8の時は輪状甲状筋は0.35程度の力が必要になります。
言い方を変えると輪状甲状筋が働けばピッチは上がり、甲状披裂筋が働くとピッチは下がるということです。
つまり声帯のカバーのみを振動させる裏声発声の時は、輪状甲状筋に力を入れ、なるべく甲状披裂はリラックスさせる必要があるということがわかります。
どうして?
ではなぜこの現象が起きるのか考えていきましょう。
カバー(上皮+靱帯)
ストレスは受動的で主に輪状甲状筋から受けると考えられます。
これは靱帯は自ら縮む事ができないためです。
そのためカバーは筋肉とは異なるため、自ら縮んでストレスを作る事ができません。
輪状甲状筋からストレスを受ける必要があります。
輪状甲状筋で引っ張り、ストレスを加えてカバーに張りがある状態を作ったとしても、甲状披裂筋は輪状甲状筋と逆の動きで声帯を縮める動きをします。
そのためカバーを緩めてしまいます。(カバーへのストレスを減らしてしまいます)
この事をボイストレーニングに応用するには?
・地声の練習と切り分ける
裏声や頭声発声のトレーニングの場合は、甲状披裂筋が活発である地声発声の低い音程から徐々に上がるよりも、裏声だけを高い音域でポンと当てるような訓練が有効かもしれません。
これは裏声が甲状披裂筋の働きをなるべく受けないようにするためです。
・高い音程からの下降系の音階を使う
低い音程からの上昇よりも、高い音程からの下降系の音階を使う方が、頭声のトレーニングを効果的にできる可能性が高いかもしれません。
・地声から頭声(裏声)の練習、頭声から地声の練習を均等にする
現代の地声系の楽曲を歌う際に、地声から頭声(裏声)への切り替えは練習をしても、頭声から地声への切り替えをスムーズにする練習をすることは少ないかと思います。
どちらも同等にトレーニングを行うことで、劇的に音域を伸ばす事ができるかもしれませんね。
解説しているインストラクター
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セス・リッグス Speech Level Singing公認インストラクター(2008年1月〜2013年12月)
VocalizeU認定インストラクター
アメリカ、韓国など国内外を問わず活躍中のボイストレーナー。
アーティスト、俳優、プロアマ問わず年間2000レッスン以上を行うボイストレーナー。
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