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桜田ヒロキ2025年11月7日 4:52 pm

【ベルティングの科学を知ろう!】

声を磨く上で、「響き」や「声量」に注目されますが、見落とされやすいのが「空気の流れと圧力の関係」です。
私たちはつい「息をもっと使おう」「支えを強く」といった言葉に頼ってしまいがちですが、実際に声を支えているのは“量”でも“力”でもありません。
それは「Airflow(呼気流量)」と「Subglottic Pressure(声門下圧)」、つまり息の流れとその下に生まれる圧力のバランスなのです。

呼気流量とは、発声中に声門(声帯のすき間)を通り抜ける空気の量を指します。
一方で声門下圧とは、声帯の下に蓄えられた空気の圧力です。
この二つの要素が釣り合うとき、声は最も効率的に響き、音色が安定します。

この関係を最初に物理モデルとして整理したのがTitze(1989)です。
彼の研究では、声門下圧が一定値を超えると声帯がより規則的に開閉し、発声効率が最大化されることが示されました。
つまり、声は「押し出す力」で作られるのではなく、「圧力と流量の均衡」で作られるということです。

声門下圧が強すぎると、声帯は過剰に押しつぶされ、振動幅が狭くなります。
結果として声は硬く、息苦しく、響きが浅くなります。
逆に流量が多すぎると、閉鎖が甘くなり、空気だけが漏れて芯のない声になります。
この“押しすぎ”と“流しすぎ”のあいだに存在するわずかなゾーンこそ、発声が最も快適で、声が自然に共鳴する領域なのです。

ベルティングのような強い声では、声門下圧を高め、流量を相対的に抑えることでエネルギー効率を最大化します。
圧によって声帯をしっかり駆動し、明るく、密度のあるサウンドを作るスタイルです。
一方、息っぽいなバラードやR&Bのような柔らかい声は、声門下圧を少し下げ、流量を多くすることで軽やかな響きを生み出します。
両者は方向性が正反対に見えますが、どちらも“圧と流量の設計”という同じルールの上に成立しています。
この「設計」を誤ると、どんなに声帯が健康でも、声は不安定になります。
圧が強すぎれば喉に過緊張が生まれ、流量が多すぎれば支えきれずに声が拡散する。
そして多くの場合、本人は「支えが足りない」と感じて、さらに力を入れてしまうのです。

声帯は単なる弁ではなく、空気のエネルギーを音に変換する“発電装置”のような存在です。
理想的な発声とは、空気が無理なくエネルギーへと変わり、身体全体がその共鳴を支えている状態。
そこでは、筋力よりも流れの設計、努力よりもバランスが結果を決めます。

実践的なトレーニングとして有効なのが、ストロー発声などのSOVT(半閉鎖発声法)です。
声門上にわずかな抵抗をつくることで、声門下圧と呼気流量のバランスを自然に調整できます。
ストローを通して声を出すと、空気が滑らかに流れ、圧が均等にかかる感覚が得られるはずです。
これは「押す」でも「息を漏らす」でもなく、まさに声が“流れに乗る”感覚です。
最終的に重要なのは、声門下圧と呼気流量をコントロールする意識を持つことではありません。
それを“感じ取れる身体”をつくることです。

歌は筋肉だけではなく、エネルギーの流れで成り立っています。
もし今、あなたの声が硬い、息っぽい、響かないと感じるなら、力ではなく流れを見直してください。
AirflowとSubglottic Pressureの釣り合いを取り戻すこと。
それこそが、あなたの声をより自然に、より深く響かせる最短の道です。

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