金子 恭平2025年8月8日 8:06 am
【長時間歌い続けるには?】
プロを目指してボイトレに通っている生徒さんは多いと思います。
プロ志向でなくとも、いつかは趣味でライブをしてみたいと考えている方もいるのではないでしょうか。
そこで問題になるのが、長時間歌い続けるための持久力です。
カラオケですぐに喉が枯れてしまったことはありませんか?
ライブハウスの対バンイベントに出演する場合、30分前後の持ち時間が与えられます。
MCを5~10分と考えて、20~25分ほどが演奏時間になります。
歌い手には最低でも五曲程度は続けて歌う能力が必要なのです。
MCのあいだも声帯は使われますから、基本的に喉のための休憩はないと考えたほうがよいでしょう。
アーティストとしてある程度人気や信用を得ると、出演者の少ないイベントに出演するようになります。
持ち時間は、おおむね以下のような感じです。
――スリーマンライブ:40~50分
――ツーマンライブ:50~60分
ワンマンライブを開催するときは、90~120分のあいだでセットリストを組むのが一般的です。
メジャーアーティストの単独コンサートとなると、150分くらいのボリュームも当たり前。曲数にすると20数曲から30曲にもなります。
しかもそのセットリストを連日こなしたりするわけですから、一流歌手のスタミナが尋常でないことがわかりますね。
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▼歌におけるスタミナとは
大前提として、長時間歌唱するためには効率的な発声が必要です。
効率的な発声とは、声帯まわりの各筋肉が協調して働いている状態を指します。
声帯を閉じるための閉鎖筋群(甲状披裂筋、外側輪状披裂筋)と、声帯を引き伸ばす伸展筋(輪状甲状筋)をバランスよく働かせるのが難しく、初学のうちにもっとも苦労するポイントです。
上記のバランスが実現されると、声帯は平行に合わさり振動することになります。
この声区をモーダルレジスタ(地声区)やファルセットレジスタ(裏声区)と区別して、ミックスレジスタ(混声区)と呼びます。
また、声道の形を適切に調整することで、唇から声帯方向への逆圧を得られます。
逆圧が肺から吹き上がる息に抵抗することで、声門閉鎖を助けてくれるのです。
自力で声帯を合わせる努力が減れば、それだけ疲労を防ぐことにつながるでしょう。
※ステージ中の声の劣化には、声帯の粘膜やボディがダメージを負って起こるものと、声帯を操作する筋肉群の疲労によって起こるものがあります。詳しいことはまた別記事にて説明できればと思います。
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▼ほかにスタミナを鍛える方法は?
効率のよい発声をしていても、長時間歌い続ければ筋疲労は避けられません。
さらなる対策はないのでしょうか。
たとえば、長距離ランニングなどの有酸素運動はどうでしょう?
継続的な有酸素運動は、筋エネルギーの生産工場であるミトコンドリアを発達させることで知られています。
そしてミトコンドリアこそが、筋持久力を決定づけている要素なのです。
残念ながら、全身運動をしても内喉頭筋群の持久力が直接向上することはないようです。
しかし悲観するべきではありません。
トレーニングを通して鍛えられた姿勢筋群や呼吸筋群、また心肺機能などは、確実に歌に役立ちます。
助けになるものは、すべて取り入れていきましょう。
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▼もっとも大切なのは発声技術
本質的に歌の持久力を上げるには、やはり技術を洗練させ続けることです。
ミックス発声を習得済みの人でも、訓練を続けることでむだが減り、より長時間歌えるようになります。
そんな歌手の姿をわたしは何度も目にしてきました。
また、声帯に水分が行き渡っていることも、健康的な歌唱を長時間続けるための条件です。
ここで注意してほしいのが、ライブ直前に大量の水を飲んでも、声帯の粘膜が一時的に増えるだけだということです。それは発声するうちにすぐ吹き飛んでしまいます。
筋肉層まで水分が浸透している必要があり、そのためには体重×30~40ml程度の水分を、月単位で継続的に摂取していかなければなりません。
水分摂取についてはヒロキ先生が詳しく書いてくれているので、ぜひタイムラインをさかのぼってみてください。
また、ライブを乗り切るためには、その日の体調やその瞬間の疲労度によって歌い方を変える必要もあります。
ふだんはベルティングで歌っているフレーズを、ヘッドボイス寄りのミックスで乗り切るといった工夫です。
そしてそれには、やはり発声技術が必要なのです。歌手寿命を長く保つには、スキルの向上を避けて通ることはできません。
いっしょに練習をがんばりましょう!