金子 恭平2025年7月11日 4:11 pm
【鼻呼吸と口呼吸の使い分け】
「歌のときは口から息を吸ってはいけませんか?」
ときおり生徒さんからこんな質問をいただきます。
ボイストレーニングのメソッドによっては、ブレスはかならず鼻から吸うよう指導されることもあるようです。
たしかに、鼻呼吸には以下のような大きなメリットがあります。
1.声帯や声道を健康に保つ
鼻から息を吸うと、空気が温められ、適度な湿度が加わります。
冷たく乾燥した空気が直接デリケートな声帯や咽頭に触れるのを防ぎ、ダメージから守ってくれます。
2.歌の「支え」を作りやすい
鼻呼吸時は自然と横隔膜が下がります。
声門下圧(声帯の下にかかる息の圧力)を一定に保つための「支え(アッポッジョ)」が作りやすくなります。
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▼ 実践的な使い分けが上達の鍵
では、歌うときは常に鼻呼吸をするべきなのでしょうか?
わたし個人としては、鼻呼吸と口呼吸を局面によって使い分けることをお勧めしています。
口呼吸のほうが、短時間で多くの息を取り込めます。
曲によってはフレーズ間の休符が短く、鼻からでは充分な息を吸えないこともあるはずです。そんなときは無理せず口を使いましょう。
基本的には「時間的な余裕があるときは鼻呼吸、それ以外は口呼吸」で問題ないと思います。
過剰な力みのない呼吸と発声ができていれば自然とそうなるはずです。
※近年では、日常生活やアクティビティにおいて、鼻呼吸を維持することのメリットが広く知られていますね。わたしも、歌うとき以外はなるべく鼻呼吸でいるよう意識しています。
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▼【余談】ディエゴ・フローレスの例に見る呼吸の多様性
ファン・ディエゴ・フローレスという高名なテノール歌手がいます。
彼は歌う曲によって、胸式寄りの呼吸から厳格な横隔膜呼吸まで、その深さを使い分けているそうです。
超一流歌手によるこの証言は、歌唱における「たったひとつの正しい呼吸」が存在しないことを示しているように思います。
楽曲や表現に応じて、最適な呼吸法を選ぶことが大切なのではないでしょうか。
鼻呼吸、口呼吸、横隔膜呼吸、胸式呼吸――何かが間違いなわけではありません。
いろいろと試すなかで、あなたの歌に最適なものを見つけていきましょう!