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金子 恭平2025年5月22日 12:37 pm

【発声エラーは上達をさまたげる?】

効率の悪い発声を繰り返すと体がそれを覚えてしまうので、なるべく非生産的な失敗をしない(させない)ようにする――。
これがハリウッド式ボイストレーニングの基本になります。

しかし、失敗は絶対にNGかというと、そうではありません。

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<失敗なしの練習>

運動学習の分野では、『エラーレス学習』の開発が盛んです。
なるべく学習者に失敗をさせず、最小の反復回数で動作を習得させる方法です。

究極的な形としては、スポーツ競技者にマシンを装着して、無意志で動作させるトレーニングなども行われているようです。
成功したときの体感を、まっさきに獲得させるのが目的です。
「体験したことはできるようになる」という人間の仕組みを利用しているんですね。

ボイトレにおけるエラー回避は、難易度の調整によって実現します。
苦手なエクササイズを避けてメニューを組むことで、失敗を最小限にとどめます。
難所を迂回しながら目的地――ミックスボイスを出すなど――を目指すイメージです。

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<失敗ありの練習>

一方で、失敗の重要性を説く論文も数多く存在します。

たとえばLee氏らによる研究では、「エラーを許容したトレーニングは、練習段階では多くの試行錯誤と苦労を伴うものの、動作記憶保持の点でエラーレス学習より優れている」ことが確認されました。

大切なことですが、Lee氏は「すべての失敗が等価ではない」とも言っています。
ひとつひとつの失敗から学びとるスタンスがなければ、非生産的どころか逆効果な練習になる恐れもあります。

On the Role of Error in Motor Learning
Lee, T. D., Eliasz, K. L., Gonzalez, D., Alguire, K., Ding,K., & Dhaliwal, C.
2016
Journal of Motor Behavior, 48(2), 99-115.

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<理想的な成功と失敗の割合>

ボイストレーナーによって、レッスンスタイルはさまざまです。
難易度を下げてリズムよく進行してくれる先生もいれば、苦手な技術とじっくり向きあうよう促してくれる先生もいるでしょう。

30%程度の失敗率が、学習効率を最大化するという研究もあります(Al-Fawakhiri氏らによる)。
生徒さんたちとのレッスン経験からも、成功7:失敗3はいい塩梅だと感じます。

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<長期的な視野>

ハリウッド式ボイトレでは、とくに初学の段階では成功体験を積み重ねることを重視します。そのほうが上達が早いからです。

ですが、仮にミックスボイスが体験できたあとでも、苦手なエクササイズがいくつも残っているような状態ではどうでしょう。それぞれの楽曲におけるメロディと発音の並び、歌う環境や日々の体調の違いに対応できるでしょうか。

長期的には、苦手な技術とも向き合っていく必要があります。
それぞれの発声の悪癖に合わせた、処方箋のようなトレーニングはハリウッド式の魅力です。しかし、本当に発声の上手な人はなんでもできるというのも、また事実なのです。

いっしょに頑張ってまいりましょう!

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