金子 恭平2025年5月7日 12:17 pm
【喉頭の位置はなぜ重要?】
熱心にボイトレに取り組んでいる方なら、「喉頭(のど仏)を下げて歌おう」という言葉を聞いたり、読んだりしたことがあると思います。
一方で、「いやいや喉頭を上げなきゃ高音は出ないよ」といった情報も見受けられるので、混乱している方もいるかもしれません。
そもそも、喉頭の位置はどうして重要なのでしょうか?
声が作られる仕組みから簡単に理解していきましょう。
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<発声のメカニズム>
肺から吹き上げられた空気が、振動する二枚の声帯に何度も押しつぶされて音波が生まれます。
この音が持つ成分のうち、音程そのものとして聞こえる部分を「基音」と呼びます。
基音は声帯が1秒間に何回振動するかで決まります。この振動数をHz(ヘルツ)という単位で表します。
例えばピアノの真ん中あたりの「ラ」の音(A4)の周波数は440Hzです。1秒間に440回の速さで声帯が振動しぶつかり合った結果、A4が出力されるということです。
人間の声は、基音の整数倍の周波数を持つ「倍音」をたくさん含んでいます。
A4なら880 Hz(第二倍音)、1320 Hz(第三倍音)……といった具合です。
声帯で作られた音(基音+倍音)が喉から口までの空間(声道)を通るときに、特定の周波数帯が強調されます。
ここで強調される周波数の各かたまりを「フォルマント(共鳴点)」と呼びます。特に第一フォルマントと第二フォルマントは、声のキャラクターに大きく影響します。
同じ高さの音を歌っても、喉頭や舌の位置、唇の開き方によって音質と母音が変わります。部屋の形状によって音楽の聞こえ方が変わるのと同じ原理です。
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<喉締め発声はなぜ起きるか?>
歌唱の際は、しばしば第一フォルマントが第二倍音に接近します。
いわゆる地声的な響きを得るために、第二倍音が声道の形状によって強調される必要があるのです。
問題となるのは、「音が高くなるほど倍音同士の間隔が広くなる」点です。
中高音を発声する際、歌い手は第一フォルマントと第二倍音の関係性を保とうとして、喉頭を引き上げてしまいがちです。高い周波数を得るには、短く狭い声道が必要だからです。
これが過剰になると、「喉締め」と形容される、苦しそうな音が出力されてしまいます。
音質だけの問題ならまだ良いのですが、狭すぎる声道はしばしばダメージを招きます。
ここに強すぎる声門閉鎖や多すぎる息の量が加わって「張り上げ発声」となると、さらに危険です。
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<どうすればいい?>
高い声を無理なく歌うには、喉頭の位置をある程度安定させ、第一フォルマントの過度な上昇を防ぐ必要があります。
脱線するのでここでは詳しく述べませんが、母音の調整が必要です。
ただし、第一フォルマントを下げすぎてしまうと音色は裏声的になります。
地声のトーンで中高音を歌えば、技術レベルや志向する音色によって程度の差はあるにせよ、喉頭の位置は上がるものです。ミックスボイス習得者も、クラシック歌手も同様です。
地声をメインとした歌唱の際は、喉頭の高さは「下げる」ではなく「上げすぎない」のがポイントといえるでしょう。
この加減が音楽ジャンルや声質、また講師と生徒のスキルにも左右されるため、冒頭で示したように様々な指導が生まれるわけですね。