金子 恭平2025年5月3日 10:09 am
【ボイトレは短く、たくさん】
「発声練習のためのまとまった時間を確保できない……」
「仕事で疲れていて長時間練習するモチベーションが湧かない……」
そんなふうに悩んでいませんか?
実は、運動学習の分野では、長時間まとめて行う「集中練習」よりも、短時間に分けて行う「分散練習」のほうが効果的であることが知られています。
――
分散練習が効果的な主な理由は以下の通りです。
<記憶の定着>
練習と練習の間に休憩を挟むことで、脳が学んだ内容を整理し、長期記憶として定着させる時間を得られます。
特に睡眠を挟むと効果が高いですが、数時間の休憩でも脳は情報を処理し、定着を促します。
集中練習では、脳が情報を処理し定着させる余裕が少なくなってしまいます。
<集中力の維持>
人間の集中力には限界があります。長時間の自主練習となると、後半の質が落ちてしまいがちです。
短いセッションであれば、集中を維持したまま、質の高い練習を繰り返すことができます。
<疲労の軽減>
ボイストレーニングでは、喉への負担も考慮しなければなりません。
声帯は繊細な組織です。良い発声をしていても、長時間歌い続ければ粘膜が減り、炎症のリスクが高まります。
また、内喉頭筋群の疲労によって発声バランスを崩すことも考えられます。
短時間であれば、喉への負担を最小限に抑えつつ、効果的にトレーニングできます。
<想起練習>
練習のたびに「前回何を学んだか」「どうやるんだったか」と思い出す行為(想起)が、記憶をより強固にします。
練習頻度が高ければそれだけ想起の機会が増え、学習内容が深く刻み込まれます。
――
学習化学が示すところでは、「まとまった1時間よりも、集中した15分を4回」といったアプローチが理にかなっているようです。
集中力を保ちやすく、記憶の定着を促し、喉への負担も少ないためです。
では、練習の時間と頻度は具体的にどのくらいに設定するのが望ましいでしょうか?
「15~30分程度の練習を1セッションとし、1日に3回以上」練習するのをお勧めします。
レッスン時に録音していただいているエクササイズも、ひとかたまりが30分を超えることはあまりないはずです。
もちろん、「毎日かならず15分を3回」と気負う必要はありません。日に5分しか練習できなくても、継続するのが大切です。
忙しくて時間が取れない日には、リップバブルやタングトリルを行うだけでも効果はあります。少しでも声帯や喉頭周りの筋肉を動かし、発声に意識を向けてあげましょう。習慣化の観点からいっても、練習時間がゼロでないことには大きな意味があります。
――
※例外
「コンサートで10曲以上歌わなければいけない」といったシチュエーションでは、ペース配分や、疲労の程度に合わせて発声を調整する技術が必要です。
そうした場合は、2時間程度を上限としてリハーサルを重ねるのがよいでしょう。