金子 恭平2025年4月27日 12:22 pm
【天然ミキサーの弱点】
ミックスボイスとは――
――声帯を縮めて太らせる甲状披裂筋(TA)
――声帯を伸ばして薄くする輪状甲状筋(CT)
――声帯同士を閉じ合わせる外側輪状披裂筋(LCA)
これらの筋肉をバランスよく働かせて作る声です。
中でも、反対方向に作用するTAとCTを拮抗させるのが鍵となります。
非常に繊細なバランスを要求される作業で、できないうちは絶望的な気分に陥りがちです。
食べたことのない料理の味を想像するような、手探りの作業が何年も続くことも珍しくありません。
個人的には逆立ちの習得に近いと思っています。
ですが逆立ちは「練習で身につけるもの」というイメージが世間に浸透しているため、コツコツと取り組みやすいです。
一方発声の場合は、「できない人が訓練によってできるようになる」過程を目にする機会が少ないうえ、動画等による視覚的なフィードバックも得られません。
何度トライしても上手くなった気がしないので、「ミックスボイスなんて存在しない!」と匙を投げてしまう事態が多発するのです。実際には数十回程度の練習でできるようになるものではないのですが……。
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そんな難度の高いミックス発声ですが、先天的にこのバランスが取れる人たちも存在します。ここでは「天然ミキサー」と呼びます。
羨ましいかぎりの天然ミキサーですが、彼ら彼女らにも弱点が存在します。
純粋な裏声(ピュア・ファルセット)が苦手な人が多いのです。
純粋な裏声とは、CTを優位に働かせ、TAとLCAの関与を抑えた声です。少し息っぽいのが特徴です。
一方、ミックスボイスは三つの筋肉の均衡を取って作る声でしたね。このバランスが当たり前の人は、CTだけを優位に働かせるのが苦手であることが推測されます。
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下の動画では、スタッフちゃんが中島美嘉さんの『雪の華』を歌っています。サビにおける、地声と裏声のコントラストが美しい曲です。
スタッフちゃんとは何度かレッスンをさせてもらっていますが、おそらく彼女は天然ミキサーです。
基本的にいつでも発声が素晴らしいのですが、純粋な裏声は少し苦手です。
地声で歌っているところから息っぽい裏声に切り替える、という作業がうまくできません。
苦手を克服するための練習も大切ですが、今回の動画では別の作
戦を取りました。
それが以下の二つです。
1.フレーズ全体の母音を「u」に寄せ、第二倍音のエネルギーを落とすことで、裏声寄りのミックスにする。
2.フレーズ全体の母音を「ae」に寄せ、第二倍音のエネルギーを上げることで、地声寄りのミックスにする。
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この記事を読んでくださっているうちの、十人に一人くらいは天然ミキサーであると思われます。ご自覚があり、かつ裏声に苦手意識のある方は、ぜひ動画内の作戦を試してみてください!