金子 恭平2025年10月12日 1:56 pm
【自転車練習に学ぶミックスボイス習得法】
みなさんはかつて、どのように自転車の乗り方を練習しましたか?
ぼくの場合は、
【父に後ろを押してもらいながらペダルを漕ぐ】
↓
【父が手を離す】
↓
【必死でバランスを取りながらペダルを漕ぐ】
↓
【転ぶ】
を繰り返すうち、徐々にひとりで走れる距離が伸びていきました。
ところが現在では、「ペダルのない自転車で、地面を蹴りながら進む」練習から始めるのが一般的です。
自転車の運転は
1.バランスを取る
2.ペダルを漕ぐ
という要素で構成されます。
これらふたつを同時に習得しようとするのは効率が悪すぎる、というのが現代の常識なんですね。
ペダルのない自転車の上で当たり前にバランスが取れるようになれば、そこにペダルを漕ぐ動作を加えるのはとても簡単なのです。
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▼現代の自転車練習法に近いハリウッド式ボイストレーニング
セス・リッグスが生み出したSpeech Level Singing(ハリウッド式)というメソッドは、現代の自転車練習法に近いものでした。
たとえば高音部分で声帯同士が離れてしまう(息っぽい裏声になってしまう)ケースでは、「アニメキャラクターのようなキンキン声を出して声帯のコネクションを確保しよう」という具合です。
※共鳴腔を狭くすると高い周波数を稼ぐことができ、結果的に声帯が閉じる働きが強まります。
できれば美しい歌声だけを出し続けたいところですが、それはいくつかの難しい技術が組み合わさって初めて実現されるものです。
Unfinished Sound(完成品でない、歌には使えない声)を積極的に利用しながら課題をひとつずつクリアして、最終的にそれらの要素を結合していくのが効率的なのです。
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▼注意点
「鼻腔共鳴」という言葉が近年流行しています。
たしかに息を鼻へ向かわせることで声帯の仕事量は格段に減るので、ミックスボイスは簡単に実現します。
しかしそれを完成した声だと思い込んで歌い続けるのは、何年経ってもペダルのない自転車に乗っているようなものです。
中高音の発声に生じるタスクを限定するため、「喉頭を極端に下げる、上げる」「母音を極端に狭める、広げる」「声を鼻に入れる」といった練習をハリウッド式ではしばしばおこないますが、あくまでそれは一時的なものです。
いつだって目標は「あなたにとって最高の歌声」であることを忘れてはいけません。
※鼻腔共鳴という言葉がよく使われるのには、実は多くのボイストレーナーが咽頭を狭めた「ファリンジャルボイス」と鼻声を混同しているという本質的な理由があります。長くなってしまうので、それはまた別の機会に。